おきにいりのーと

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【ほんわか】引き取られた養父一家がめちゃくちゃポジティブだった

32 :名無しさん@お腹いっぱい。:2013/06/12(水) 09:47:59.15 .net
やっぱさ 物は言い様なんだよなー
俺子供の頃からめちゃくちゃ目つき悪いんだけどさ
養父に引き取って貰う時に、根性のある精悍な顔つきしてる いい男になるって
言われて、よっぽど嬉しかったのかそのまま体育会系まっしぐらだったし
学校の勉強関係なく自分で辞書引いたのも「精悍」が初めてだしな

あと養母も、親戚連中にうちらとは血が繋がってないから、ひょっとして
ノーベル賞とかとる様な事もあるかもしれない
その時はマスコミの取材やらで迷惑かけるかもしれんけどよろしくって
なんかっちゃ言って回ってたって親戚になったジジイ聞いて びっくりしたわ
逆じゃね 普通不良になったり犯罪起こしたりで迷惑かけるかもとは考えるけどさ
よく考えると親戚連中そんなのばっかだわ
畑持ってたジジババなんて、迷惑かけられるかもじゃなくて力仕事手伝ってもらえるかもって
しょっぱなから小遣いやるから夏は家に来い来いってうるさかったわ

負の可能性じゃなくて正の可能性ばっかり口にする連中って
楽観主義っていうんかな 何なんだろうな
でも俺は嬉しかったわ 本当にめちゃくちゃ嬉しかったんだわ

33 :名無しさん@お腹いっぱい。:2013/06/12(水) 12:04:23.24 .net
親が子供に与えてあげる貴重な贈り物は自尊心だからな
なかなか大人になってからでは難しい

34 :名無しさん@お腹いっぱい。:2013/06/12(水) 12:45:24.86 .net
>>32
国語に問題がありそうだが、なんか感動した
いい話をありがとう

 

 

□□□□チラシの裏 28枚目□□□□  より

【ほんわか】商店街で働くばーちゃんに似顔絵描いた

31 :スペースNo.な-74:2009/08/23(日) 16:39:30
よし、自分も同人で培った能力でカコイイした話を投下する!
ばーちゃんちが小さい商店街の中の店。

夏休みに子供向けの企画でスタンプラリーなんてやるんだけど、
そこのチラシに、自分がばーちゃんの似顔絵描いた。
そしたら「(ばーちゃんの店)さんとこは本職の絵描きさんを頼んだのかい?」と
言われ、「孫だ」と答えたら「うちもうちも」と結局全商店街自分の似顔絵で
埋め尽くされた。

ばーちゃんが世話んなってるとこだからもちろん無償で引き受けたよ。
でもそれぞれのお店から海苔とか味噌とかクリーニング券とかいただいた。
ばーちゃんがすごく誇らしげで、嬉しそうだったので自分も嬉しい。
これからも描いちゃうぞー。

でも商店街あるくと店のおばちゃんたちが
「おっ(自分)ちゃん取材かい」
っていうんだよな…
あわてて身なり整えるおじちゃんもいるし。
似顔絵にそんなに何度もモデルはいらないよ、おじちゃん…

32 :スペースNo.な-74:2009/08/23(日) 16:54:43
おじちゃんカワユスw
お祖母ちゃん喜んでくれて良かったね。和むわー。

33 :スペースNo.な-74:2009/08/24(月) 11:03:29
ばーちゃん孝行カコイイ!
孫がほめられるって自分がほめられるより嬉しいんだよね
35 :スペースNo.な-74:2009/08/26(水) 17:11:02
ほのぼの商店街いいなー!おばあちゃんも商店街のみんなも>>31も幸せそう。
貢献してる>>31カコイイ!

最近自分がしたカッコイイ行動3 より

【スカッと】何かと要求の多いウトメに放った一言

113 :名無しさん@HOME:2011/10/01(土) 00:08:34.67 0

次の子はまだか、週末○○に遊びに連れてけ、コトメ子の世話しろ、 
同居しろ、しなくても大トメの介護しろ、 
などなど要求の多いウトメにいちいち拒否して文句言われるのも癪だったので 

「いいですよ。お金ください」 

って返事するようになってから何も言われなくなってきた。 

114 :名無しさん@HOME:2011/10/01(土) 00:28:18.53 0

>>113 
GJ!!! 

115 :名無しさん@HOME:2011/10/01(土) 00:33:53.57 0

>>>113 
素晴らしきGJ! 
9月の、月間MVPを贈呈したい! 

116 :名無しさん@HOME:2011/10/01(土) 00:37:03.99 O

嫌みか 

117 :名無しさん@HOME:2011/10/01(土) 00:40:51.21 0

糞なウトメや義実家と関わるなんてマジ金でも貰わんとやってられんわなw 

118 :名無しさん@HOME:2011/10/01(土) 00:42:02.72 0

>>113 
これは名言!! 

119 :名無しさん@HOME:2011/10/01(土) 00:43:38.74 0

あーこれ、うちの母親には超有効だろうな 
愛情も金でしか表現できないタイプは 
こういうのをまともに受けて、結構ダメージくらうんだよね 

私の義母は、お金に執着してない、身の程を知ってるタイプだから 
私の母親に苦労してる弟の嫁ちゃんに教えてあげようww 


120 :名無しさん@HOME:2011/10/01(土) 00:45:09.68 0

>>113 
まさにGJ! 
何も壊してないし誰も傷つけてない 

 

 

【宣戦】義実家にしたスカッとするDQN返し 214【布告】 より

【恐怖】事務所に空き巣が入ったので通報したら・・・

66名無しさん@おーぷん :2018/07/03(火)18:08:33 ID:27U ×
自営で事務所をもってたとき、空き巣に入られた。
で、警察よんで現場検証しつ聞き取りも事務所内で。そしたら現場検証なんていつものことよーってゆるーい(多分私があばばばってなってたから緊張しないようにしてくれてた)
雰囲気がだんだん張り詰めてきた。
えっ...何事...って真っ青になってたら「誤解しないで欲しいんだけど、回し者じゃないんだけど」と前置きしてから
「警備会社に入った方がいいよ」
と、なんでも私の話した事務所の状況は空き巣にとって「美味しい稼ぎ場」らしく、その一つは毎日同じ時間に帰ってからまた事務所にこないとか、そういうのなんだけど立地条件が更に拍車をかけて天国状態。
でも事務所だし、今回はたまたま一万円(代引き用に残してと)置いてただけだしと逡巡した。
「ここら辺だったら警備会社○○しかないし、ほんと回し者じゃないんだけど、空き巣日本人じゃないよ。なんでって聞かれても
捜査に影響でるから教えてあげられないけど。多分もう一回空き巣入るし、そのときに何もないと事務所燃やされるよ」
ってダメ押しで言われて、結局警備会社と契約した。
怖いのはそっからで、警備会社と契約した時に前述をそのまま伝えたらすっと真顔になって「あ、もう一回入りますね。警備会社に入ってますのシールデカイのいっぱい渡すんで、ペタペタ貼ってください。もう一回入りますけど。そのあとはうちにヘイト向くんで大丈夫ですよ」
って普通3枚くらいしか渡さないデッカいステッカー10枚くらいくれた。
そして三カ月後もう一度空き巣に入られた。
二度目に来てくれた警察官に「やっぱり入った?外れた方が良かったんだけどね。嬉しくない感が当たったなあ」と言われて警備会社のステッカーを見てから
「うん、これ見てるから○○会社に窃盗失敗の恨み行くから大丈夫」
ってさらっといわれたのも怖かった。
67名無しさん@おーぷん :2018/07/03(火)18:29:47 ID:xzh ×
>>66
こええーーー
ニュースでよく見るね<外国人の窃盗集団。何もないと燃やされるって…gkbr
シールが護符代わりになったのか。自分達にヘイト向くんで大丈夫ってさらっと言えるなんて、仕事とはいえスゴいなあ…
68名無しさん@おーぷん :2018/07/03(火)18:57:30 ID:XAT ×
怖いな
そりゃ守るところは少ない方が楽なんだろうけど…
72名無しさん@おーぷん :2018/07/03(火)19:35:17 ID:27U ×
警備会社の営業さんが「個人で恨まれるより、警備会社が恨まれる方がいいんですよwうちには伝手が色々あるし。今は色々ある
からアレですけど...本当になんのゆかりも無いですけど、いい人に(警察官)に当たって良かったですね。僕がその人なら色々勘繰られるから、現場検証してそのままですね」
って朗らかに話すのも怖かったよ...。
燃やすのもだけど、家電を腹いせに壊したり、窓ガラス全部割ったりするらしいね。
しかも全国行脚してるから足付かないんだと。

 

何を書いても構いませんので@生活板63  より

【洒落怖】母に彼氏ができた結果・・・

158本当にあった怖い名無し2018/04/01(日) 16:06:34.02ID:0/eCaK9Z0
オチとか特にない話だけど。 

母子家庭で何十年も再婚とかせず私を育ててきた母に半年前彼氏が出来た。 
彼氏の方も同じバツイチ子持ちで、私とひとつ違いの娘がいるまあ似た者同士。 

そんな母の彼氏とは一度会っただけでそれ以降特に会うことがなかった。 
だけどそれ以来、どうも首が痛い。最初は喉風邪とかだと思ったけど動かす度に痛むから寝違えたのだと判断した。 
だけど首の痛みは治まることなく、痛む一方だった。

 

159本当にあった怖い名無し2018/04/01(日) 16:12:52.36id:bZN5xzTp0
風邪でもなければ寝違えたわけでもない。しかし痛みは悪化していく上に、夢か現実か曖昧だけど女が馬乗りになって私の首を締めてきたりする光景を何度も見るようになった。 

ホラー映画のように朝起きたら奇怪な痣や髪の毛などが残ってることもないので自分がおかしいんじゃないかと思った。 

そんなことがほぼ毎日続いて気が滅入った私に母は相変わらず能天気に彼氏の話をしてくる。 
その時、母はデリカシーがないのか私にその彼氏と家族の写真を見せてきた。 

興味がないので適当なコメントでもしようと写真を見て私は驚いた。その写真の中に、私の首を締める女とそっくりな人がいたからだ。

 

160本当にあった怖い名無し2018/04/01(日) 16:20:28.13id:bZN5xzTp0>>162
私は母にこの女が誰なのか聞いたら普通に返された。 

「前話したあんたと一つ違いの娘さん」 

もしかしたら私が精神的に病んでて、一度見た娘さんを覚えて首を締められる夢を見るならわかる。だが私はこの娘さんを初めて見たのだ。 
私は興味があるふりをしてこの娘について聞いてた。 

「この子ねぇ、離婚してから母親と住んでるけど彼氏が大好きなファザコンなの」 
「20過ぎてるのに父親に膝枕されるのが大好きで会うときもずっとべったりしてる」 
「父親はもちろんそんな娘を大事にしてる。娘は多分私のことはよく思ってないんじゃないか」 

ここまで聞いて、私の身に起きたこと全てが心霊現象なら母に被害がいかないのはおかしいと心から思った。

 

161本当にあった怖い名無し2018/04/01(日) 16:28:05.27id:bZN5xzTp0>>168
母はそれから関係ない話を更に続けたが、その時に関係がありそうなことも話した。 

「そうそう彼氏とっても優しくていいお父さんだから、あんたのこともいつも気にかけてんのよ」 
「そうなんだ」 
「あんたの写真とか見せたら更に親近感わいたのか『私ちゃんと娘と一緒に会いたい』とかも言ってるし、娘にあんたの話してるみたいよ」 
「それでファザコンの娘、その時いつも不機嫌になるみたいでうけるでしょ〜?」 
「やっぱ娘より一つだけだけど歳下のあんたのことが一番気になるみたいよ」 

嫌な予感しかない。私はその時怒って、彼氏には娘に私の話をするのはデリカシーが無さすぎるから話さないよう言えと伝えた。 
偶然か何なのか、それから暫くして私の首の痛みはなくなり女も見なくなった。 

これが生き霊とか呪いとかの類いだとしたら一言だけ言いたい。 
何で私なんだ。

 

162本当にあった怖い名無し2018/04/01(日) 16:29:55.67id:f87B1H8L0>>163
>>160 

生霊じゃない? 

子供殺してその後に殺すつもりか不幸に陥れるのが狙いか 
または新たな家族の愛情を独り占めとか 
色々理由は想像できるけど、生霊って無意識なこともあるらしいから 

でも幽霊より生霊のがタチ悪いって聞いた気がするから気をつけて

 

163本当にあった怖い名無し2018/04/01(日) 16:35:29.26ID:0/eCaK9Z0>>165
>>162 
生き霊とかって退治できないんだよね? 
二人の交際がまだ続いてるから出来る限り気を付けたいけど対処法があるなら知りたい

 

164本当にあった怖い名無し2018/04/01(日) 16:38:11.01id:NCs8WMep0
再婚絡みのヤバい生霊というと似たような話知ってるけど 
http://hayabusa.open%32ch.net/test/read.cgi/news4vip/1398283055/ 
こっちは打算が読める分まだ理解できるが 
そちらの娘さんの方はかなり闇が深そうだな 
いやもしかすると闇深いのは父親の方かも知れんが 
怖いのは生霊より生きた人間言うし身辺には気を付けたほうが良えで

 

165本当にあった怖い名無し2018/04/01(日) 16:39:13.87id:f87B1H8L0>>166
>>163 

そんな状況に陥ったことないから何とも言えんがこんなのは? 
http://spi-lab.com/wraith-488

 

166本当にあった怖い名無し2018/04/01(日) 16:49:26.88id:bZN5xzTp0
>>165 
何かあった時参考にする。ありがとう
>>161 
>何で私なんだ。 

まあ真面目な話、その娘さんにしてみれば 
父親の娘というポジションを脅かす存在だからな 
母親よりもむしろ158の方に感情的脅威を感じてもおかしくはない 
ファザコンと一口に言ってもそれはコンプレックス(心的複合体)の一種で 
深層心理が複雑に絡み合った心理状況だからな 
恐らく表の意識では158とは仲良くやって行けるかもかも知れんけど 
あまり深層意識を刺激するとどうなるか分からん 
父親の方とは意識して一定の距離は置いとくに越したことはない 
その辺はあらかじめ母親にも理解してもらった方がいいかもな

 

169本当にあった怖い名無し2018/04/01(日) 19:22:34.90id:bZN5xzTp0>>170
>>168 
複雑なんだな。こちらからできることはやっておく。二人共デリカシーがないからまた娘は刺激されることあると思うし

 

>>169 
まあ生霊とか予知夢とかオカルトめいたものを抜きにしても、 
夢というのは一種の行動シミュレーションという説もあるからな 
恐らく彼氏に娘がいるという話を聞いて、 
無意識のうちにその共同生活で起こり得る問題を 
脳内でシミュレートした結果だった可能性もある 
見たこともなかった娘さんが登場したというのは不思議な現象だけど 

とにかく夢というのは良く分からない代物で、 
無意識の奥底から思いがけないメッセージを伝えてくるもんだからね

 

171本当にあった怖い名無し2018/04/01(日) 20:00:20.59id:bZN5xzTp0
>>170 
生き霊とか呪いとかの類いじゃなく、自分の思い込みだったとしたら首を無意識に自分で締めてる可能性があるしそっちの方が嫌だな。結果オカルトなのを願うよ。

 

なんで私なんだ、って… 
母ちゃんの方にとり憑けって言ってるみたいでヤな感じ

 

173本当にあった怖い名無し2018/04/02(月) 01:15:20.08id:TeA2QV8i0
>>172 
??

 

174本当にあった怖い名無し2018/04/02(月) 04:13:36.71ID:m/R6B4ykO
他人を不愉快にしようとしてるわけではない他人の言動が 
不愉快に見えるのは→自分自身の心が荒んでる時なんだってね
 
 
 
 
 

【洒落怖】リアル

166 :本当にあった怖い名無し:2011/05/13(金) 11:30:26.52 id:rKgs8JSd0

コピペだが俺的に暫定一位のヤツを。 


この怖い話を携帯で見るそこまで面白いことでもないし、長くしないように気をつけるが多少は目をつぶって欲しい。 
では書きます。 
何かに取り憑かれたり狙われたり付きまとわれたりしたら、マジで洒落にならんことを最初に言っておく。 
もう一つ俺の経験から言わせてもらうと、一度や二度のお祓いをすれば何とかなるって事はまず無い。 
長い時間かけてゆっくり蝕まれるからね。 
祓えないって事の方が多いみたいだな。 

俺の場合は大体2年半位。 
一応、断っておくと五体満足だし人並みに生活できてる。 
ただ、残念ながら終わったかどうかって点は定かじゃない。 

まずは始まりから書くことにする。 
当時俺は23才。 社会人一年目って事で新しい生活を過ごすのに精一杯な頃だな。会社が小さかったから当然同期も少ない、必然的に仲が良くなる。 
その同期に東北地方出身の○○って奴がいて、こいつがまた色んな事を知ってたりやけに知り合いが多かっりした訳。 

で、よくこれをしたら××になるとか△△が来るとかって話あるじゃない? 
あれ系の話はほとんどガセだと思うんだけど、幾つかは本当にそうなってもおかしくないのがあるらしいのよ。 
そいつが言うには何か条件が幾つかあって、偶々揃っちゃうと起きるんじゃないかって。 
俺の時は、まぁ悪ふざけが原因だろうな。 当時は車を買ってすぐだったし、一人暮らし始めて間もないし、何よりバイトとは比べ物にならない給料が入るんで週末は遊び呆けてた。 
8月の頭に、ナンパして仲良くなった子達と○○、そして俺の計4人で所謂心霊スポットなる場所に肝試しに行ったわけさ。 
その場は確かに怖かったし、寒気もしたし何かいるような気がしたりとかあったけども、特に何も起こらず、まぁスリルを満喫して帰った訳だ 


167 :本当にあった怖い名無し:2011/05/13(金) 11:32:58.86 id:rKgs8JSd0

3日後だった。 当時の会社は上司が帰るまで新人は帰れないって暗黙のルールがあって、毎日遅くなってた。 
疲れて家に帰って来て、ほんと今思い出しても理解出来ないのだが、部屋の入口にある姿見の前で、「してはいけないこと」をやったんだ。 
試そうとか考えた訳ではなく、ふと思い付いただけだったと思う。 

少し細かな説明をする。当時の俺の部屋は駅から徒歩15分、八畳1R、玄関から入ると細い廊下がありその先に八畳分の部屋がある。 姿見は部屋の入口、つまり廊下と部屋の境目に置いていた。 
俺が○○から聞いていたのは、鏡の前で△をしたまま右を見ると◆が来るとか言う話だった。 
体勢的にちょっとお辞儀をしているような格好になる。 
「来るわけねぇよな」なんて呟きながら、お辞儀のまま右向いた時だった。 

部屋の真ん中辺りに何かいた。 見た目は明らかに異常。 
多分160センチ位だったと思う。髪はバッサバサで腰まであって、簾みたいに顔にかかってた。っつーか顔にはお札みたいなのが何枚も貼ってあって見えなかった。なんて呼ぶのか分からないけど、亡くなった人に着せる白い和服を来て、小さい振り幅で左右に揺れてた。 
俺はと言うと…、固まった。声も出なかったし一切体は動かなかったけど、頭の中では物凄い回転数で起きていることを理解しようとしてたと思う。 

想像して欲しい。 

狭い1Rに、音もない部屋の真ん中辺りに何かいるって状態を。 
頭の中では原因は解りきっているのに起きてる事象を理解出来ないって混乱が渦を巻いてる。 

とにかく異常だぞ? 灯りをつけてたけど、逆にそれが怖いんだ。 いきなり出てきたそいつが見えるから。 そいつの周りだけ青みがかって見えた。 
時間が止まったと錯覚するくらい静かだったな。 



169 :リアル:2011/05/13(金) 11:37:34.51 id:rKgs8JSd0

すまん、以下コテにリアルって乗せとくね。この話の題名。 

とりあえず俺が出した結論は「部屋から出る」だった。 足元にある鞄を、何故かゆっくりと、慎重に手に取った。 そいつからは目が離せなかった。 目を離したらヤバいと思った。 
後退りしながら廊下の半分(普通に歩いたら三歩くらいなのに、かなり時間がかかった)を過ぎた辺りでそいつが体を左右に振る動きが少しずつ大きくなり始めた。 
と同時に何か呻き声みたいなのを出し始めた。 
そこから先は、実はあんまり覚えてない。気が付くと駅前のコンビニに入ってた。 
兎にも角にも、人のいるコンビニに着いて安心した。ただ頭の中は相変わらず混乱してて「何だよアレ」って怒りにも似た気持ちと、「鍵閉め忘れた」って変なとこだけ冷静な自分がいた。 結局その日は部屋に戻る勇気は無くて一晩中ファミレスで朝を待った。 

空が白み始めた頃、恐る恐る部屋のドアを開けた。良かった。消えてた。 
部屋に入る前に、もっかい外に出て缶コーヒーを飲みながら一服した。 
実は何もいなかったんじゃないかって思い始めてた。本当にあんなん有り得ないしね。 

明るくなったってのと、もういないってので少し余裕出来たんだろうね。 
さっきよりはやや大胆に部屋に入った。 
「よし、いない」何て思いながら、カーテンが閉まってるせいで薄暗い部屋の電気を着けた。 




170 :リアル:2011/05/13(金) 11:39:23.41 id:rKgs8JSd0

昨晩の出来事を裏付ける光景が目に入ってきた。 
昨日、アイツがいた辺りの床に物凄く臭いを放つ泥(多分ヘドロだと思う)が、それも足跡ってレベルを超えた量で残ってた。 起きた事を事実と再認識するまで、時間はかからなかった。 
ハッと気付いてますますパニックになったんだけど、…俺、電気消してねーよ…ははっ。 
スイッチ押した左手見たらこっちにも泥がついてんの。 
しばらくはどんよりした気持ちから抜けられなかったが、出ちまったもんは仕方ねーなと思えてきた。 

まぁここら辺が俺がAB型である典型的なとこなんだけど、そんな状態にありながら泥を掃除してシャワー浴びて出社した。 
臭いが消えなくてかなりむかついたし、こっちはこっちで大問題だが会社を休むことも一大事だったからね。 

会社に着くと、いつもと変わらない日常が待っていた。 俺は何とか○○と話す時間を探った。 
事の発端に関係する○○から、何とか情報を得ようとしたのだ。 
昼休み、やっと捕まえる事に成功した。 以下俺と○○の会話の抜粋。 

俺「前にさぁ、話してた△すると◆が来るとかって話あったじゃん。昨日アレやったら来たんだけど。」 
○○「は?何それ?」 
俺「だからぁ、マジ何か出たんだって!」 
○○「あー、はいはい。カウパー出たのね」 
俺「おま、ふざけんなよ。やっべーのが出たってんだよ」 
○○「何言ってんのかわかんねーよ!」 
俺「俺だってわかんねーよ!!」 


171 :リアル:2011/05/13(金) 11:41:20.93 id:rKgs8JSd0

駄目だ、埒があかない。 ○○を信用させないと何も進まなかったため、俺は淡々と昨日の出来事を説明した。 最初はネタだと思っていた○○もやっと半信半疑の状態になった。 
仕事終わり、俺の部屋に来て確かめる事になった。 
夜10時、幸いにも早めに会社を出られた○○と俺は部屋に着いた。 扉を開けた瞬間に今朝嗅いだ悪臭が鼻を突いた。 締め切った部屋から熱気とともに、まさしく臭いが襲ってきた。 
帰りの道でもしつこいくらいの説明を俺から受けていた○○は「・・・マジ?」と一言呟いた。信じたようだ。 
問題は○○が何かしら解決案を出してくれるかどうかだったが、望むべきではなかった。 

とりあえず、お祓いに行った方がいいことと知り合いに聞いてみるって言葉を残し奴は逃げるように帰って行った。 
予想通りとしか言いようがなかったが、奴の顔の広さだけに期待した。 

臭いとこに居たくない気持ちからその日はカプセルホテルに泊まった。 
今夜も出たら終わりかもしれないと思ったのが本音。 
翌日、とりあえず近所の寺に行く。さすがに、会社どころじゃなかった。 

お坊さんに訳を説明すると「専門じゃないから分からないですね~。しばらくゆっくりしてはいかがでしょう。きっと気のせいですよ」なんて呑気な答えが返ってきた。 世の中こんなもんだ。 
その日は都内では有名な寺や神社を何軒か回ったがどこも大して変わらなかった。 

疲れはてた俺は、埼玉の実家を頼った。 
正確には、母方の祖母がお世話になっているS先生なる尼僧に相談したかった。っつーかその人意外でまともに取り合ってくれそうな人が思い浮かばなかった。 



172 :リアル:2011/05/13(金) 11:42:33.54 id:rKgs8JSd0

ここでS先生なる人を紹介する。 

母は長崎県出身で当然祖母も長崎にいる。 
祖母は、戦争経験からか熱心な仏教徒だ。 S先生はその祖母が週一度通っている自宅兼寺の住職さんだ。 
俺も何度か会ったことがある。 俺は詳しくはないが、宗派の名前は教科書に乗ってるくらいだから似非者の霊能者などとは比較にならないほどしっかりと仏様に仕えてきた方なのだ。 

人柄は温厚、落ち着いた優しい話し方をする。 
俺が中学に上がる頃親父が土地を買い家を建てることになった。 地鎮祭とでも言うんだっけ? 兎に角その土地をお祓いした。 
その一週間後に長崎の祖母から「土地が良くないからS先生がお祓いに行く」という内容の電話があった。当然、母親的にも「もう終わってるのに何で?」ってことでそれを言ったらしい。 そしたら祖母から「でもS先生がまだ残ってるって言うたったい」って。 
つまり、俺が知る限り唯一頼れる人物である可能性が高いのがS先生だった。 


173 :リアル:2011/05/13(金) 11:44:16.53 id:rKgs8JSd0

日も暮れてきて、埼玉の実家があるバス停に着いた頃には夜9時を回る少し前だった。 
都内と違い、工場ばかりの町なので夜9時でも人気は少ない。バス停から実家までの約20分を足早に歩いた。人気の無い暗い道に街灯が規則的に並んでいる。 
内心、一昨日の事がフラッシュバックしてきてかなり怯えてたが、幸いにも奴は現れなかった。 

が、夜になり涼しくなったからか俺は自分の身体の異変に気が付いた。 
どうも首の付け根辺りが熱い。 伝わりにくいかと思うが、例えるなら首に紐を巻き付けられて左右にずらされているような感じだ。 
首に手をやって寒気がした。熱い。首だけ熱い。 しかもヒリヒリしはじめた。どうも発疹のようなモノがあるようだった。 
歩いてられなくなり、実家まで全力で走った。息を切らせながら実家の玄関を開けると母が電話を切るところだった。 
そして俺の顔を見るなりこう言ったんだ。 

「あぁ、あんた。長崎のお婆ちゃんから電話来て心配だって。S先生があんたが良くない事になってるからこっちおいでって言われたて。あんたなんかしたの?」 
「あらやだ。あんた首の回りどうしたの!!?」 

答える前に玄関の鏡を見た。奴が来るかもとか考えなかったな…、何故か。 
首の回り、付け根の部分は縄でも巻かれているかのように見事に赤い線が出来ていた。 
近づいてみると、細かな発疹がびっしり浮き上がっていた。 

さすがに小刻みに身体が震えてきた。 
何も考えずに、母にも一言も返事をせずに階段を駈け上がり、母の部屋の小さな仏像の前で南無阿弥陀仏を繰り返した。 
そうする他、何も出来なかった。心配して親父が「どうした!!」と怒鳴りながら走って来た。 母は異常を察知して祖母に電話している。母の声が聞こえた。 泣き声だ。 
逃げ場はないと、恐ろしい事になってしまっているとこの時やっと理解した…。 

174 :リアル:2011/05/13(金) 11:46:37.51 id:rKgs8JSd0

実家に帰り、自分が置かれている状況を理解して3日が過ぎた。 
精神的に参ったからか、それが何かしらアイツが起こしたものなのかは分からなかったが、2日間高熱に悩まされた。 
首から異常なほど汗をかき、2日目の昼には血が滲み始めた。3日目の朝には首からの血は止まっていた。 
元々滲む程度だったしね。熱も微熱くらいまで下がり、少しは落ち着いた。 

ただ、首の回りに異常な痒さが感じられた。 
チクチクと痛くて痒い。枕や布団、タオルなどが触れると鋭い、小さな痛みが走る。 
血が出ていたから瘡蓋が出来て痒いのかと思い、意識して触らないようにした。 
布団にもぐり、夕方まで気にしないように心掛けたが、便所に行った時にどうしても気になって鏡を見た。鏡なんて見たくもないのに、どうしても自分に起きてる事をこの目で確認しないと気が済まなかった。 

鏡は見たこともない状況を写していた。 

首の赤みは完全に引いていた。 その代わり、発疹が大きくなっていた。 
今でも思い出す度に鳥肌が立つほど気持ち悪いが敢えて細かな描写をさせて欲しい。 気を悪くしないでくれ。 
元々首の回りの線は太さが1cmくらいだった。 そこが真っ赤になり、元々かなり色白な俺の肌との対比で正しく赤い紐が巻かれているように見えていた。 
これが3日前の事。 目の前の鏡に映るその部分には膿が溜まっていた。 

…いや、正確じゃないな。 




175 :リアル:2011/05/13(金) 11:50:04.21 id:rKgs8JSd0

正確には、赤い線を作っていた発疹には膿が溜まっていて、まるで特大のニキビがひしめき合っているようだった。 
そのほとんどが膿を滲ませていて、あまりにおぞましくて気持ちが悪くなりその場で吐いた。 
真水で首を洗い、軟膏を母から借り、塗り、泣きながら布団に戻った。 何も考えられなかった。唯一つ「何で俺なんだ」って憤りだけだった。 

泣きつかれた頃、携帯がなった。○○からだった。 
こういう時、ほんの僅かでも、希望って物凄いエネルギーになるぞ? 正直、こんなに嬉しい着信はなかった。 
俺「もしもし」 
○○「おぉ~!大丈夫~!?」 
俺「ぃや…大丈夫な訳ねーだろ…」 
○○「ぁー、やっぱヤバい?」 
俺「やべーなんてもんじゃねーよ。はぁ…。っつーか何かないんかよ?」 
○○「ぅん」 
○○「地元の友達に聞いてみたんだけどさ~、ちょっと分かる奴居なくて…、申し訳ない。」 
俺「ぁー、で?」 

正直、○○なりに色々してくれたとは思うがこの時の俺に相手を思いやる余裕なんてなかったから、かなり自己中な話し方に聞こえただろう。 

○○「いや、その代わり、友達の知り合いにそーいうの強い人がいてさー。紹介してもいいんだけど金かかるって…」 
俺「!? 金とんの?」 
○○「うん、みたい…。どーする?」 
俺「どんくらい?」 
○○「知り合いの話だととりあえず五十万くらいらしい…」 
俺「五十万~!?」 

当時の俺からすると働いているとはいえ五十万なんて払えるわけ無い額だった。金が惜しかったが、恐怖と苦しみから解放されるなら…。 選択肢は無かった。 

俺「…分かった。いつ紹介してくれる?」 
○○「その人今群馬にいるらしいんだわ。知り合いに聞いてみるからちょっと待ってて。」 


176 :リアル:2011/05/13(金) 11:52:07.62 id:rKgs8JSd0

話が前後するが、俺が仏像の前で南無阿弥陀仏を繰り返していた時、母は祖母に電話をかけていた。 
祖母からすぐにS先生に相談が行き(相談と言うよりも助けて下さいってお願いだったらしいが)、最終的にはS先生がいらしてくれる事になっていた。 

ただし、S先生もご多忙だし何より高齢だ。こっちに来れるのは三週間先に決まった。 
つまり、三週間は不安と恐怖と、何か起きてもおかしか無い状況に居なければならなかった。 
そんな状況だから、少しでも出来るだけの事をしてないと気持ちが落ち着かなかった。 

○○が電話を折り返してきたのは夜11時を過ぎた頃だった。 

○○「待たせて悪いね。知り合いに相談したら連絡入れてくれて、明日行けるって。」 
俺「明日?」 
○○「ほら、明日日曜じゃん?」 

そうか、いつの間にか奴を見てから五日も経つのか。不思議と会社の事を忘れてたな。 

俺「分かった。ありがと。ウチまで来てくれるの?」 
○○「家まで行くって。車で行くらしいから住所メールしといて」 
俺「お前はどーすんの?来て欲しいんだけど」 
○○「行く行く」 
俺「金、後でも大丈夫かな?」 
○○「多分大丈夫じゃね?」 
俺「分かった。近くまで来たら電話して」 

何とも段取りの悪い話だが、若僧だった俺には仕方の無い事だった。 

177 :リアル:2011/05/13(金) 11:54:39.71 id:rKgs8JSd0

その晩、夢を見た。 寝てる俺の脇に、白い和服をきた若い女性が正座していた。 俺が気付くと、三指をつき深々と頭を下げた後部屋から出ていった。 
部屋から出る前にもう一度深々と頭を下げていた。 
この夢がアイツと関係しているのかは分からなかったが。 

翌日、昼過ぎに○○から連絡が来た。 電話で誘導し出迎えた。 
来たのは○○とその友達、そして三十代後半くらいだろう男が来た。 
普通の人だと思えなかったな。 チンピラみたいな感じだったし、何の仕事をしてるのか想像もつかなかった。 
俺がちゃんと説明していなかったから両親が訝しんだ。 まず間違いなく偽名だと思うが男は林と名乗った。 

林「T君の話は彼から聞いてましてね。まー厄介な事になってるんです。」 
(今さらですまん。Tとは俺、会話中の彼は○○だと思って読んでくれ。) 

父「それで林さんはどういった関係でいらしていただいたんですか?」 
林「いやね、これもう素人さんじゃどーしようもなぃんですよ。 
お父さん、いいですか?信じられないかも知れませんがこのままだとT君、危ないですよ?」 

林「で、彼が友達のT君が危ないから助けて欲しいって言うんでね、ここまで来たって訳なんですよ」 
母「Tは危ないんでしょうか?」 
林「いやね、私も結構こういうのは経験してますけどこんなに酷いのは初めてですね。この部屋いっぱいに悪い気が充満してます」 
父「…」 
父「失礼ですが、林さんのご職業をお聞きしても良いですか?」 
林「あー、気になりますか?ま、そりゃ急に来てこんな話したら怪しいですもんねぇ」 
林「でもね、ちゃんと除霊して、辺りを清めないと、T君、ほんとに連れて行かれますよ?」 


179 :本当にあった怖い名無し:2011/05/13(金) 11:59:05.85 id:SBVtdKVX0その林ってのめっちゃあやしい。 

181 :本当にあった怖い名無し:2011/05/13(金) 12:04:34.07 id:SBVtdKVX0

危ないと言ってるその尼さんが何ですっ飛んで来ずに3週間先だなんて悠長なことを言ってるのか、 
また、何で尼さんが来れないなら自分から寺に行かなかったのか疑問。 

182 :リアル:2011/05/13(金) 12:05:40.53 id:rKgs8JSd0

連投でひっかかった。続きです。 

母「あの、林さんにお願いできるでしょうか?」 
林「それはもう、任せていただければ。こーいうのは私みたいな専門の者じゃないと駄目ですからね。 
  ただね、お母さん。こっちとしとも危険があるんでね、少しばかりは包んでいただかないと。ね、分かるでしょ?」 
父「いくらあればいいんです?」 
林「そうですね~、まぁ二百はいただかないと…。」 
父「えらい高いな!?」 
林「これでも彼が友達助けて欲しいって言うからわざわざ時間かけて来てるんですよ? 
  嫌だって言うならこっちは別に関係無いですからね~。でも、たった二百万でT君助かるなら安いもんだと思いますけどね」 
林「それに、T君もお寺に行って相手にされなかったんでしょう? 
  分かる人なんて一握りなんですわ。また、一から探すんですか?」 

俺は黙って聞いてた。 
さすがに二百万って聞いた時は○○を見たが、○○もばつの悪そうな顔をしていた。 
結局、父も母も分からないことにそれ以上の意見を言える筈もなく、渋々任せることになった。 


183 :リアル:2011/05/13(金) 12:09:34.66 id:rKgs8JSd0

林は早速今夜に除霊をすると言い出した。 準備をすると言い、一度出掛けた。(出がけに両親に準備にかかる金をもらって行った) 
夕方に戻ってくると、蝋燭を立て、御札のような紙を部屋中に貼り、膝元に水晶玉を置き数珠を持ち、日本酒だと思うがそれを杯に注いだ。 
何となくそれっぽくなって来た。 

林「T君。これからお祓いするから。これでもう大丈夫だから」 
林「お父さん、お母さん。すみませんが一旦家から出ていってもらえますかね?もしかしたら霊がそっちに行く事も無い訳じゃないですから」 

両親は不本意ながら、外の車で待機する事になった。 日も暮れて、辺りが暗くなった頃、お祓いは始まった。 
林はお経のようなものを唱えながら一定のタイミングで杯に指をつけ、俺にその滴を飛ばした。 
俺は半信半疑のまま、布団に横たわり目を閉じていた。林からそうするように言われたからだ。 

お祓いが始まってから大分たった。 

お経を唱える声が途切れ途切れになりはじめた。 
目を閉じていたから、嫌な雰囲気と少しずつおかしくなってゆくお経だけが俺に分かることだった。 

最初こそ気付かなかったが首がやけに痛い。 痒さを通り越して、明らかに痛みを感じていた。 
目を開けまいと、痛みに耐えようと歯を食いしばっているとお経が止まった。 

しかしおかしい。 

良く分からないが区切りが悪い終り方だったし、終わったにしては何も声をかけてこない。 何より、首の痛みは一向に引かず、寧ろ増しているのだ。 
寒気も感じるし、何かが布団の上に跨がっているような気がする。 


185 :リアル:2011/05/13(金) 12:11:57.15 id:rKgs8JSd0

目を開けたらいけない。それだけは絶対にしてはいけない。分かってはいたが…。開けてしまった。 
目を開けると、恐ろしい光景が飛び込んできた。 

林は、布団で寝ている俺の右手側に座りお祓いをしていた。 
目を開けると、林と向き合うように俺を挟んでアイツが正座していた。 膝の上に手を置き、上半身だけを伸ばして林の顔を覗き込んでいる。 
林の顔とアイツの顔の間には拳一つ分くらいの隙間しかなかった。 
不思議そうに、顔を斜めにして、梟のように小刻みに顔を動かしながら、聞き取れないがぼそぼそと呟きながら林の顔を覗き込んでいた。 
今思うと林に何かを囁いていたのかもしれない。 

林は…少し俯き気味に、目線を下に落としたまま瞬きもせず、口はだらしなく開いたまま涎を垂らしていた。少し顔が笑っていたように見えた。 時々小さく頷いていた。 
俺は、瞬きも忘れ凝視していた。 不意にアイツの首が動きを止めた。 次の瞬間、顔を俺に向けた。 
俺は…慌てて目をギュッと閉じ、布団を被りひたすら南無阿弥陀仏と唱えていた。 
俺の顔の間近で、アイツが梟のように顔を動かしている光景が瞼に浮かんできた。 恐ろしかった。 

ガタガタと音が聞こえ、階段を駈け降りる音が聞こえた。 林が逃げ出したようだ。 
俺は怖くて怖くて布団に潜り続けていた。 
両親が来て、電気を着けて布団を剥いだとき、丸まって身体が固まった俺がいたそうだ。 
林は、両親に見向きもせず車に乗り込み、まっていた○○、○○の友達と供に何処かへ消えていった。 
後から○○に聞いた話では、「車を出せ」以外は言わなかったらしい。 
解決するどころか、ますます悪いことになってしまった俺には、三週間先のS先生を待っている余裕など残っていなかった。 

186 :リアル:2011/05/13(金) 12:15:37.35 id:rKgs8JSd0

アイツを再び目にしてからさらに4日が経った。 
当たり前かも知れないが首は随分良くなり、まだ痕が残るとは言え明らかに体力は回復していた。 熱も下がり身体はもう問題が無かった。 
ただ、それは身体的な話でしかなくて、朝だろうが夜だろうが関係無く怯えていた。 何時どこでアイツが姿を現すかと思うと怖くて仕方無かった。 
眠れない夜が続き、食事もほとんど受け付けられず、常に辺りの気配を気にしていた。 
たった10日足らずで、俺の顔は随分変わったと思う。精神的に追い詰められていた俺には時間が無かった。 

当然、まともな社会生活なんて送れる訳も無く、親から連絡を入れてもらい会社を辞めた。(これも後から聞いた話でしかないのだが…、連絡を入れた時は随分嫌味を言われたらしい) 
とにかく、何もかもが怖くて洗濯物や家の窓から見える柿の木が揺れただけでも、もしかしたらアイツじゃないかと一人怯えていた。 
S先生が来るまでには、まだ二週間あまりが残っていた俺には長すぎた。 

見かねた両親は、強引に怯える俺を車に押し込み何処かへ向かった。 父が何度も「心配するな」「大丈夫だ」と声をかけた。 
車の後部座席で、母は俺の肩を抱き頭を撫でていた。母に頭を撫でられるなんて何年ぶりだったろう。 
(当時の俺にはだが)時間の感覚も無く、車で移動しながら夜を迎えた。 
二十歳も過ぎて恥ずかしい話だが、母に寄り添われ安心したのか、久方ぶりに深い眠りに落ちた。 

187 :リアル:2011/05/13(金) 12:18:29.14 id:rKgs8JSd0

目が覚めるとすでに陽は登っていて、久しぶりに眠れてすっきりした。実際には丸1日半眠っていたらしい。 
多分、あんなに長く眠るなんてもうないだろうな。外を見ると車は見慣れない景色の中を進んでいた。 

少しずつ、見覚えのある景色が目に入り始めた。道路の中央に電車が走っている。車は…長崎に着いていた。これには俺も流石に驚いた。 
怯え続ける俺を気遣い、飛行機や新幹線は避け車での移動にしてくれたらしい。 
途中で休憩は何度も入れたらしいが、それでもろくに眠らず車を走らせ続けた父と、俺が怖がらないようにずっと寄り添ってくれた母への恩は、一生かけても返しきれそうもない。 

祖父母の住む所は長崎の柳川という。柳川に着くと坂道の下に車を停め両親が祖父母を呼びに行った。 
(祖父母の家は坂道から脇に入った石段を登った先にある) 
その間、俺は車の中に一人きりの状態になった。 
両親が二人で出ていったのは足腰の悪い祖母やS先生の家に持っていく荷物を運ぶのを手伝うためだったのだが、自分で「大丈夫、行って来て」なんて言ったのは本当に舐めてた証拠だと思う。 
久しぶりに眠れた事や、今いる場所が東京・埼玉と随分離れた長崎だった事が気を弛めたのかもしれない。 

車の後部座席に足をまるめて座り(体育座りね)、外をぼーっと眺めていると急に首に痛みが走った。 
今までの痛みと比較にならないほど、言い過ぎかも知れないが激痛が走った。 

188 :リアル:2011/05/13(金) 12:20:28.62 id:rKgs8JSd0

首に手をやると滑りがあった。…血が出てた。指先に付いた血が、否応なしに俺を現実に引き戻した。この時、怖いとか、アイツが近くにいるかもって考える前に「またかよ…」ってなげやりな気持ちが先に来たな。もう何か嫌になって泣けてきた。 

分かってもらえれば嬉しいけど、嫌な事が少しの間をおいて続けて起きるのってもうどうしようも無いくらい落ち込むんだよね。 
気持ちの整理が着き始めると嫌な事が起きるっては辛いよね。 
この時は少し気が弛んでいたから尚更で、「どーしろっつーんだよ!!」とか「いい加減にしてくれよ」とか独り言をぶつぶつ言いながら泣いてた。 
車に両親が祖父母を連れて戻って来たんだけど、すぐにパニックになった。 
何しろ問題の俺が首から血を流しながら後部座席で項垂れて泣いてるからね。 
何も無い訳がないよな。 
「どうした?」とか「何とか言え!」とか「もぅやだー」とか「Tちゃん、しっかりせんか!!」とか「どげんしたと!?」とか「あなたどうしよう」とか。 
この時は…思わず「てめぇらぅるっせーんだよ!!」って怒鳴ってしまった。 
こんな時に説明なんか出来るわけねーだろって、てめぇらじゃ何も出来ねぇ癖に…黙ってろよ!とか思ってたな。 
勝手に悪い事になって仕事は辞めるわ、騙されそうになるわ…こんな俺みたいな駄目な奴のために走り回ってくれてる人達なのに…。今考えると本当に恥ずかしい。 

で、人生で一度きりなんだけどさ、親父がいきなり俺の左頬に平手打ちをしてきた。 
物凄い痛かったね。親父、滅茶苦茶厳しくて何度も口喧嘩はしたけど多分生まれてから一回も打たれた事無かったからな。 
(父のポリシーで子供は絶対殴らないってのは昔から耳タコだったしね) 

で、一言だけ「お祖父さんとお祖母さんに謝れ」って静かだけど厳しい口調で言ったんだ。 
それで、何故か落ち着いた。ってかびっくりし過ぎてそれまでの絶望感がどっかに行ってしまったよ。 



190 :リアル:2011/05/13(金) 12:23:05.92 id:rKgs8JSd0

冷静さを取り戻して、皆に謝ったら急に腹が据わってきた気がした。 
走り始めた車の中で励ましてくれる祖父母の言葉に感極まってまた泣いた。 
自分で思ってるよか全然心が弱かったんだな、俺は。 

S先生の家(寺でもあるが)に着くとふっと軽くなった気がした。 何か起きたっていうよりは俺が勝手に安心したって方が正しいだろうな。 
門をくぐり、石畳が敷かれた細い道を抜けると初老の男性が迎え入れてくれた。そう言えばS先生の家にはいつもお客さんがいたような気がする。 きっと、祖母のように通っている人が多いんだろう。 
奥に通され裏手の玄関から入り進んでいくと、十畳くらいの仏間がある。 
S先生は俺の記憶の通り、仏像の前に敷かれた座布団の上に正座していて…ゆっくりと振り向いたんだ。 

(下手な長崎弁を記憶に頼って書くが見逃してな) 

祖母「Tちゃん、もうよかけんね。S先生が見てくれなさるけん」 
S先生「久しぶりねぇ。随分立派になって。早いわねぇ」 
祖母「S先生、Tちゃんば大丈夫でしょかね?」 
祖父「大丈夫って。そげん言うたかてまだ来たばかりやけんS先生かてよう分からんてさ」 
祖母「あんたさんは黙っときなさんてさ。もうあたし心配で心配で仕方なかってさ」 

何でだろう…ただS先生の前に来ただけなのにそれまで慌ていた祖父母が落ち着いていた。 それは両親にも、俺にも伝わってきて、深く息を吐いたら身体から悪いものが出ていった気がした。 
両親はもう体力的にも精神的にも限界に近かったらしく、「疲れちゃったやろ?後はS先生が良くしてくれるけん、隣ば行って休んでたらよか」と人懐こい祖父の言葉に甘えて隣の部屋へ。 

191 :リアル:2011/05/13(金) 12:26:19.79 id:rKgs8JSd0

S先生「じゃあTちゃん、こっちにいらっしゃい」S先生に呼ばれ、向かい合わせで正座した。 
S先生「それじゃIさん達も隣の部屋で寛いでらして下さい。Tちゃんと話をしますからね」 
S先生「後は任せて、こっちの部屋には良いと言うまで戻って来ては駄目ですよ?」 
祖父「S先生、Tちゃんばよろしくお願いします!」 
祖母「Tちゃん、心配なかけんね。S先生がうまいことしてくれるけん。あんたさんはよく言うこと聞いといたらよかけんね。ね?」 

しきりにS先生にお願いして、俺に声をかけてくれる祖父母の姿にまた涙が出てきた。 泣きっぱなしだな俺。 
S先生はもっと近づくように言い、膝と膝を付け合わせるように座った。 
俺の手を取り、暫くは何も言わず優しい顔で俺を見ていた。 俺は何故か悪さをして怒られるじゃないかと親の顔色を伺っていた子供の頃のような気持ちになっていた。 
目の前の、敢えて書くが自分よりも小さくて明らかに力の弱いお婆ちゃんの威圧的でもなんでもない雰囲気に呑まれていた。 
あんな人本当にいるんだな。 

S先生「…どうしようかしらね」 
俺「…」 
S先生「Tちゃん、怖い?」 
俺「…はい」 
S先生「そうよねぇ。このままって訳には行かないわよねぇ」 
俺「えっと…」 
S先生「あぁ、いいの。こっちの話だから」 

何がいいんだ!?ちっともよかねーだろなんて気持ちが溢れて来て、耐えきれずついにブチ撒けた。本当に人として未熟だなぁ、俺は。 

 

193 :リアル:2011/05/13(金) 12:28:37.08 id:rKgs8JSd0

俺「あの、俺どーなるんすか? もう早いとこ何とかして欲しいんです。 大体何なんですか? 
何でアイツ俺に付きまとうんですか? もう勘弁してくれって感じですよ。 
S先生、何とかならないんですか?」 

S先生「Tちゃ…」 
俺「大体、俺別に悪いこと何もしてないっすよ!?確かに□□(心霊スポットね)には行ったけど俺だけじゃないし、何で俺だけこんな目に会わなきゃいけないんすか? 鏡の前で△しちゃだめだってのも関係あるんですか? ホント訳わかんねぇ!!あーっ!苛つくぅぁー!!」 

「ドォ~ドォルルシッテ」 
「ドォ~ドォルル」「チルシッテ」 

…何が何だか解らなかった。(ホントに訳解んないので取り敢えずそのまま書く) 

「ドォ~。 シッテドォ~シッテ」 

左耳に鸚鵡か鸚哥みたいな甲高くて抑揚の無い声が聞こえてきた。 
それが「ドーシテ」と繰り返していると理解するまで少し時間がかかった。 
俺はS先生の目を見ていたし、S先生は俺の目を見ていた。 ただ優しくかったS先生の顔は無表情になっているように見えた…。 

左側の視界には何かいるってのは分かってた。 チラチラと見えちゃうからね。 
よせば良いのに、左を向いてしまった。首から生暖かい血が流れてるのを感じながら。 

195 :リアル:2011/05/13(金) 12:31:03.08 id:rKgs8JSd0

アイツが立ってた。 体をくの字に曲げて、俺の顔を覗き込んでいた。 
くどいけど…訳が解らなかった。起きてることを認められなかった。 
此処は寺なのに、目の前にはS先生がいるのに…何でなんで何で…。 
一週間前に、見たまんまだった。 アイツの顔が目の前にあった。 梟のように小刻みに顔を動かしながら俺を不思議そうに覗き込んでいた。 

「ドォシッテ? ドォシッテ? ドォシッテ? ドォシッテ?」 

鸚鵡のような声でずっと質問され続けた。 
きっと…林も同じようにこの声を聞いていたんだろう。 
俺と同じ言葉を囁かれていたのかは解らないが…。 
俺は…息する事を忘れてしまって目と口を大きく開いたままだった。 
いや、息が上手く出来なかったって方が 正しいな。たまに【コヒュッ】って感じで息を吸い込む事に失敗してた気がするし。 
そうこうしているうちに、アイツが手を動かして顔に貼り付けてあるお札みたいなのをゆっくりめくり始めたんだ。 

見ちゃ駄目だ!! 絶対駄目だって分かってるし逃げたかったんだけど動けないんだよ!! 
もう顎の辺りが見えてしまいそうなくらいまで来ていた。 
心の中では「ヤメロ!それ以上めくんな!!」って叫んでるのに口からは「ァ…ァカハッ…」みたいな情けない息しか出ないんだ。 
もうやばい!! ヤバい!ヤバい!ってところで 

「パンッ!!」 

って。 例えとか誇張でもなく“跳び上がった。 心臓が破裂するかと思った。 

 

204 :リアル:2011/05/13(金) 13:00:19.41 id:rKgs8JSd0

「パン!!」 

その音で俺は跳び上がった。正座してたから体が倒れそうになりながら後に振り向いてすぐ走り出した。 
何か考えてた訳じゃなく体が勝手に動いたんだよね。でも慣れない正座のせいで足が痺れてまともに走れないのよ。 
痺れて足が縺れた事とあんまりにも前を見てないせいで頭から壁に突っ込んだがちっとも痛くなかった。 
額から血がだらだら出てたのに…、それだけテンパって周りが見えてなかったって事だな。 

血が目に入って何も見えない。手をブン回して出口を探した。けど的外れの方ばっかり探してたみたい。 

「まだいけません!」 

いきなりS先生が大きい声を出した。障子の向こうにいる両親や祖父母に言ったのか俺に言ったのか分からなかった。分からなかったがその声は俺の動きを止めるには十分だった。 
ビクってなってその場で硬直。またもや頭の中では物凄い回転で事態を把握しようとしていた。 
っつーか把握なんて出来る筈もなく、S先生の言うことに従っただけなんだけどね。 
俺の動きが止まり、仏間に入ろうとする両親と祖父母の動きが止まった事を確認するかのように少しの間を置いてからS先生が話始めた。 

S先生「Tちゃんごめんなさいね。怖かったわね。もう大丈夫だからこっちに戻ってらっしゃい」 

「Iさん、大丈夫ですからもう少し待ってて下さいね」 

障子(襖だったかも)の向こうからしきりに何か言ってのは聞こえてたけど覚えてない。血を拭いながらS先生の前に戻ると手拭いを貸してくれた。お香なのかしんないけどいい匂いがしたな。ここに来てやっとあの音はS先生が手を叩いた音だって気付いた。 
(質問出来る余裕は無かったけど) 

206 :リアル:2011/05/13(金) 13:08:17.87 id:rKgs8JSd0

S先生「Tちゃん、見えたわね?聞こえた?」 
俺「見えました…どーして?って繰り返してました。」 
この時にはもうS先生の顔はいつもの優しい顔になってたんだ。俺も今度はゆっくりと、出来るだけ落ち着いて答える事だけに集中した。まぁ…考えるのを諦めたんだけどね。 

S先生「そうね。どうして?って聞いてたわね。何だと思った?」 
さっぱり分からなかった。考えようなんて思わなかったしね。 

俺「?? …いや…、ぅぅん?…分かりません」 
S先生「Tちゃんはさっきの怖い?」 
俺「怖い…です」 
S先生「何が怖いの?」 
俺「いや…、だって普通じゃないし。幽霊だし…」 

ここらへんで俺の脳は思考能力の限界を越えてたな。S先生が何が言いたいのかさっぱりだった。 
S先生「でも何もされてないわよねぇ?」 
俺「いや…首から血が出たし、それに何かお札みたいなの捲ろうとしてたし。明らかに普通じゃないし…」 
S先生「そうよねぇ。でも、それ以外は無いわよねぇ」 
俺「…」 
S先生「難しいわねぇ」 
俺「あの、よく分からなくて…すいません」 
S先生「いいのよ」 

S先生は、俺にも分かるように話してくれた。諭すっていった方がいいかもしれない。 
まず、アイツは幽霊とかお化けって呼ばれるもので間違いない。じゃあ所謂悪霊ってヤツかって言うとそう言いきっていいかS先生には難しいらしかった。 
明らかにタチが悪い部類に入るらしいけど、S先生には悪意は感じられなかったって言っていた。 
俺に起きた事は何なのかに対してはこう答えた。 
「悪気は無くても強すぎるとこうなっちゃうのよ。あの人ずっと寂しかったのね。話したい、触れたい、見て欲しい、気付いて気付いてーって、ずっと思ってたのね」 
「Tちゃんはね、分からないかもしれないけど暖かいのよ。色んな人によく思われてて、それがきっと“いいな~。優しそうだな~って思ったのね。だから自分に気付いてくれた事が嬉しくて仕方なかったんじゃないかしら」 
「でもね、Tちゃんはあの人と比べると全然弱いのね。だから、近くに居るだけでも怖くなっちゃって体が反応しちゃうのね」 
S先生は、まるで子供に話すようにゆっくりと、難しい言葉を使わないように話してくれた。 

207 :リアル:2011/05/13(金) 13:12:17.31 id:rKgs8JSd0

俺はどうすればいいのか分からなくなったよ。 
アイツは絶対に悪霊とかタチの悪いヤツだと決めつけてたから。 
S先生にお祓いしてもらえばそれで終ると思ってたから…。それなのにS先生がアイツを庇うように話してたから…。 

S先生「さて、それじゃあ今度は何とかしないといけないわね。Tちゃん、時間かかりますけど何とかしてあげますからね」 
この一言には本当に救われたよ。 あぁ、もういいんだ。終るんだって思った。やっと安心したんだ。 
S先生に教えられたことを書きます。俺にとって一生忘れたくない言葉です。 

「見た目が怖くても、自分が知らないものでも自分と同じように苦しんでると思いなさい。救いの手を差し伸べてくれるのを待っていると思いなさい」 

S先生はお経をあげ始めた。お祓いのためじゃ無くアイツが成仏出来るように。その晩、額は裂けてたしよくよく見れば首の痕が大きく破けて痛かったけど本当にぐっすり眠れた。(お経終わってもキョドってた俺のために笑いながらその日は泊めてくれた) 

208 :リアル:2011/05/13(金) 13:13:45.30 id:rKgs8JSd0

翌日、朝早く起きたつもりがS先生はすでに朝のお祈りを終らしてた。 
S先生「おはよう、Tちゃん。さ、顔洗って朝御飯食べてらっしゃい。食べ終わったら本山に向かいますからね」 

関係者でも何でもないんであまり書くのはどうかと思うが少しだけ。 
S先生が属している宗派は前にも書いた通り教科書に載るくらい歴史があって、信者の方も修行されてる方も日本全国にいらっしゃるのね。教えは一緒なんだけど地理的な問題から東と西それぞれに本山があるんだって。 
俺が連れていってもらったのが西の本山。本山に暫くお世話になって、自分が元々持っている徳(未だにどんなものか説明できないけど)を高める事と、アイツが少しでも早く成仏出来るように本山で供養してあげられるためってS先生は言ってた。 
その話を聞いて一番喜んだのが祖母、まだ信じられなそうだったのが親父。最後は俺が「もう大丈夫。行ってくる」って言ったから反対しなかったけど。 

本山に着くと迎えの若い方が待っていて、S先生に丁寧に挨拶してた。本堂の横奥にある小屋(小屋って呼ぶのが憚れるほど広くて立派だったが)で本山の方々にご挨拶。 ここでもS先生にはかなりの低姿勢だったな。 
S先生、実は凄い人らしく、望めばかなりの地位(「寂しいけど序列ができちゃうのね」ってS先生は言ってた)にいても不思議じゃないんだって後から聞いた。 
俺は本山に暫く厄介になり、まぁ客人扱いではあったけど皆さんと同じような生活をした。多分、S先生の言葉添えがあったからだろうな。 

210 :リアル:2011/05/13(金) 13:21:22.89 id:rKgs8JSd0

その中で、自分が本当に幸運なんだなって実感したよ。 
もう四十年間ずっと蛇の怨霊に苦しめられている女性や、家族親族まで祟りで没落してしまって 
身寄りが無くなってしまったけど、家系を辿れば立派な士族の末裔の人とか… 
俺なんかよりよっぽど辛い思いしてる人がこんなにいるなんて知らなかったから…。 
厳しい生活の中にいたからなのか、場所がそうだからなのか、 
あるいはS先生の話があったからなのか恐怖は大分薄れた。 
(とは言うものの、ふと瞬間にアイツがそばに来てる気がしてかなり怯えたけど) 

本山に預けてもらって一ヶ月経った頃S先生がいらっしゃった。 
S先生「あらあら、随分良くなったみたいね」 
俺「えぇ、S先生のおかげですね」 
S先生「あれから見えたりした?」 
俺「いや…一回も。多分成仏したかどっかにいったんじゃないですか?ここ、本山だし」 
S先生「そんな事ないわよ?」 

顔がひきつった。 

S先生「あら、ごめんなさい。また怖くなっちゃうわよね」 
「でもねTちゃん、ここには沢山の苦しんでる人がいるの。 
   その人達を少しでも多く助けてあげるのが私達の仕事なのよ」 
多分だけどS先生の言葉にはアイツも含まれてたんだと思う。 

S先生「Tちゃん、もう少しここにいて勉強しなさい。折角なんだから」 

俺はS先生の言葉に従った。あの時の事がまだまだ尾を引いていて、まだここにいたいって思ってたからね。 
それに一日はあっという間なんだけど…何て言うか時間がゆっくり流れてような感じが好きだったな。 
(何か矛盾してるけどね)そんなこんなが続いて、結局三ヶ月も居座ってしまった。 
その間S先生は(二ヶ月前に来たきり)こっちには顔を出さなかった。 
やっぱりS先生の言葉がないと不安だからね。 
でも、哀しいかな流石に三ヶ月もそれまで自分がいた騒々しい世界から隔離去れると物足りない気持ちが強くなってた。 

211 :リアル:2011/05/13(金) 13:25:33.18 id:rKgs8JSd0

実に二ヶ月ぶりにS先生がやって来てやっと本山での生活は終りを迎えようとしていた。 
身支度を整え、兎に角お世話になった皆さんに一人ずつ御礼を言いS先生と帰ろうとしたんだ。 
でも気付くと横にいたはずのS先生がいない。「あれ?」と思って振り向いたら少し後にいたんだ。 
「歩くの速すぎたかな?」って思って戻ったら優しい顔で 
「Tちゃん、帰るのやめてここに居たら?」って言われた。 

実はS先生に認められた気がして少し嬉しかった。 

「いや、僕にはここの人達みたいには出来ないです。本当に皆さん凄いと思います。真似出来そうもないですよ」 

照れながら答えたら 

S先生「そうじゃなくて帰っちゃ駄目みたいなのよ」 
俺「え?」 
S先生「だってまだ残ってるから」 

また顔がひきつった。 
結局、本山を降りる事が出来たのはそれから二ヶ月後だった。実に五ヶ月も居座ってしまった。多分、こんなに長く家族でも無い誰かに生活の面倒を見てもらう事はこの先ないだろう。 
S先生から「多分もう大丈夫だと思うけど、しばらくの間は月に一度おいでなさい。」と言われた。 
アイツが消えたのか、それとも隠れてれのか本当のところは分からないからだそうだ。 
長かった本山の生活も終ってやっと日常に戻って来た。 借りてたアパートは母が退去手続きを済ましてくれていて、 
実家には俺の荷物が運び込まれてた。 

アパートの部屋を開けた時、何かを燻したような臭いと部屋の真ん中辺りの床に小さな虫が集まってたらしい。 
怖すぎたらしくその日はなにもしないで帰って来たんだってさ。 
翌日、仕方無いんで意を決してまた部屋を開けたら臭いは残ってたけど虫は消えてたらしい。 
母には申し訳ないが俺が見なくて良かった 

212 :リアル:2011/05/13(金) 13:27:22.34 id:rKgs8JSd0

実家に戻り、実に約半年ぶりくらいに携帯を見ると(そーいやそれまでは気にならなかったな。)物凄い件数の着信とメールがあった。 中でも一番多かったのが○○。 
メールから、奴は奴なりに自分のせいでこんな事になったって自責の念があったらしく、謝罪とかこうすればいいとかこんな人が見つかったとかまめに連絡が入ってた。 
母から、○○が家まで来た事も聞いた。 戻って二日目の夜、○○に電話を入れた。電話口が騒がしい。○○は呂律が回らず何を言っているか分からなかった。 

…コンパしてやがった。 

とりあえず電話をきり「殺すぞ」とメールを送っておいた。 所詮世の中他人は他人だ。 
翌日、○○から誤りたいから時間くれないか?とメールが来た。電話じゃなかったのは気まずかったからだろう。 
夜になると、家まで○○が来た。わざわざ遠いところまで来るくらいだ。相当後悔と反省をしていたのだろう。(夜に出歩くのを俺が嫌ったからってのが一番の理由である事は言うまでもない) 
玄関を開け○○を見るなり二発ぶん殴ってやった。 
一発は奴の自責の念を和らげるため、一発はコンパなんぞに行ってて俺を苛つかせた事への贖罪のめに。 

言葉で許されるよりも殴られた方がすっきりする事もあるしね。まぁ、二発目は俺の個人的な怒りだが。 
○○に経緯を細かく話し、その晩は二人して興奮したり怖がったり…今思うと当たり前の日常だなぁ。 

213 :リアル:2011/05/13(金) 13:30:55.97 id:rKgs8JSd0

○○からは、あの晩のそれからを聞いた。 
あの晩、逃げたした時には林は明らかにおかしくなっていた。 
林の車の中で友達と待っていた○○には、まず間違いなくヤバい事になっているって事がすぐに分かったそうだ。 
でも、後部座席に飛び乗ってきた林の焦り方は尋常じゃ無かったらしく、車を出さざるを得なかったらしい。 
「反抗したりもたついたりしたら何されっか分かんなかったんだよ」 

○○の言葉が状況を物語っていた。 
○○は、車が俺の家から離れ高速の入り口近くの信号に捕まった時に、逃げ出したらしい。 

○○「だってあいつ、途中から笑い出したり、震えたり、“俺は違う“とか“そんな事しません“とか言い出して怖いんだもんよ」 

アイツが何か囁いてる姿が甦ってきて頭の中の映像を消すのに苦労した。 
俺の家に戻って来なかったのは単純に怖すぎたからだって。「根性無しですみませんでした」って謝ってたから許した。 
俺が○○でも勘弁だしね。 
その後、林がどうなったかは誰も知らない。さすがに今回の件では○○も頭に来たらしく、林を紹介した友達を問い詰めたらしい。 
結局、林は詐欺師まがいにも成りきれないようなどうしようも無いヤツだったらしく、唆されて軽い気持ち(小遣い稼ぎだってさ…)で紹介したんだと。 

○○曰く「ちゃんとボコボコにしといたから勘弁してくれ!」との事。 
でもこんな状況を招いたのが自分の情報だってのには参ったから、今度は持てる人脈を総動員したが… 
こんなことに首を突っ込んだり聞いた事がある奴が回りにいるはずもなく、多分とか~だろうとかってレベルの情報しか無かったんだ。 

だから「何か条件が幾つかあって、偶々揃っちゃうと起きるんじゃないか」としか言えなかった。 

214 :リアル:2011/05/13(金) 13:34:11.55 id:rKgs8JSd0

その後、俺はS先生の言い付けを守って毎月一度、S先生を訪ねた。 
最初の一年は毎月、次の一年は三か月に一度。 ○○も、俺への謝罪からか何も無くても家まで来ることが増えたし、 
S先生のところに行く前と帰ってきた時には必ず連絡が来た。 

アイツを見てから二年が経った頃、S先生から「もう心配いらなそうね。Tちゃん、これからはたまに顔出せばいいわよ。でも、変な事しちゃだめよ」って言ってもらえた。 

本当に終ったのか…俺には分からない。S先生はその三ヶ月後、他界されてしまった。 
敬愛すべきS先生、もっと多くの事を教えて欲しかった。ただ、今は終ったと思いたい。 

S先生のお葬式から二ヶ月が経った。 
寂しさと、大切な人を亡くした喪失感も薄れ始め俺は日常に戻っていた。 
慌ただしい毎日の隙間にふとあの頃を思い出す時がある。あまりにも日常からかけ離れ過ぎていて、 
本当に起きた事だったのか分からなくこともある。 
こんな話を誰かにするわけもなく、またする必要もなく、ただ毎日を懸命に生きてくだけだ。 

祖母から一通の手紙が来たのはそんなごくごく当たり前の日常の中だった。 
封を切ると、祖母からの手紙と、もう一つ手紙が出てきた。 
祖母の手紙には俺への言葉と共にこう書いてあった。 
“S先生から渡されていた手紙です。四十九日も終わりましたのでS先生との約束通りTちゃんにお渡しします“ 

S先生の手紙、今となってはそこに書かれている言葉の真偽が確かめられないし、そのままで書く事は俺には憚られるので崩して書く。 

216 :リアル:2011/05/13(金) 13:37:20.60 id:rKgs8JSd0

Tちゃんへ 
ご無沙汰しています。Sです。あれから大分経ったわねぇ。 
もう大丈夫?怖い思いをしてなければいいのだけど…。 
いけませんね、年をとると回りくどくなっちゃって。 
今日はね、Tちゃんに謝りたくてお手紙を書いたの。 
でも悪い事をした訳じゃ無いのよ。あの時はしょうがなかったの。 でも…、ごめんなさいね。 

あの日、Tちゃんがウチに来た時、先生本当は凄く怖かったの。 
だってTちゃんが連れていたのはとてもじゃ無いけど先生の手に負えなかったから。 
だけどTちゃん怯えてたでしょう?だから先生が怖がっちゃいけないって、そう思ったの。 

本当の事を言うとね、いくら手を差し伸べても見向きもされないって事もあるの。あの時は、運が良かったのね。 
Tちゃん、本山での生活はどうだった? 少しでも気が紛れたかしら? 
Tちゃんと会う度に先生まだ駄目よって言ったでしょう? 覚えてる? 

このまま帰ったら酷い事になるって思ったの。 
だから、Tちゃんみたいな若い子には退屈だとは分かってたんだけど帰らせられなかったのね。 
先生、毎日お祈りしたんだけど中々何処かへ行ってくれなくて。 

でも、もう大丈夫なはずよ。近くにいなくなったみたいだから。 
でもねTちゃん、もし…もしもまた辛い思いをしたらすぐに本山に行きなさい。 
あそこなら多分Tちゃんの方が強くなれるから中々手を出せないはずよ。 

 

218リアル:2011/05/13(金) 14:02:03.21 id:rKgs8JSd0S先生の手紙の続き 

最後にね、ちゃんと教えておかないといけない事があるの。 
あまりにも辛かったら、仏様に身を委ねなさい。 
もう辛い事しか無くなってしまった時には、心を決めなさい。 
決してTちゃんを死なせたい訳じゃないのよ。 
でもね、もしもまだ終っていないとしたらTちゃんにとっては辛い時間が終らないって事なの。 

Tちゃんも本山で何人もお会いしたでしょう? 

本当に悪いモノはね、ゆっくりと時間をかけて苦しめるの。決して終らせないの。 
苦しんでる姿を見てニンマリとほくそ笑みたいのね。 
悔しいけど、先生達の力が及ばなくて目の前で苦しんでいても何もしてあげられない事もあるの。 
あの人達も助けてあげたいけど…、どうにも出来ない事が多くて…。 
先生何とかTちゃんだけは助けたくて手を尽くしたんだけど、正直自信が持てないの。 
気配は感じないし、いなくなったとも思うけど、まだ安心しちゃ駄目。安心して気を弛めるのを待っているかも知れないから。 

いい?Tちゃん。 
決して安心しきっては駄目よ。いつも気を付けて、怪しい場所には近付かず、 
余計な事はしないでおきなさい。先生を信じて。ね? 

嘘ばかりついてごめんなさい。 
信じてって言う方が虫が良すぎるのは分かっています。 
それでも、最後まで仏様にお願いしていた事は信じてね。 
Tちゃんが健やかに毎日を過ごせるよう、いつも祈ってます。 



219 :リアル:2011/05/13(金) 14:04:20.50 id:rKgs8JSd0

読みながら、手紙を持つ手が震えているのが分かる。 
気持ちの悪い汗もかいている。鼓動が早まる一方だ。一体、どうすればいい? 
まだ…、終っていないのか? 

急にアイツが何処かから見ているような気がしてきた。もう、逃れられないんじゃないか? 
もしかしたら、隠れてただけでその気になればいつでも俺の目の前に現れる事が出来るんじゃないか? 
一度疑い始めたら、もうどうしようもない。全てが疑わしく思えてくる。 

S先生は、ひょっとしたらアイツに苦しめられたんじゃないか? 
だから、こんな手紙を遺してくれたんじゃないか? 
結局…、何も変わっていないんじゃないか? 

林は、ひょっとしたらアイツに付きまとわれてしまったんじゃないか? 
一体アイツに何を囁かれたんだ。俺とは違う、もっと直接的な事を言われて…、おかしくなったんじゃないか? 

S先生は、俺を心配させないように嘘をついてくれたけど、「嘘をつかなければならないほど」の事だったのか…。 
結局、それが分かってるからS先生は最後まで心配してたんじゃないのか? 
疑えば疑うほど混乱してくる。どうしたらいいのかまるで分からない。 

220 :リアル:2011/05/13(金) 14:06:27.13 id:rKgs8JSd0

ここまでしか…俺が知っている事はない。 
二年半に渡り今でも終ったかどうか定かではない話の全てだ。 

結局、理由も分からないし、都合よく解決できたり何かを知ってる人がすぐそばにいるなんて事は無かった。 
何処から得たか定かではない知識が招いたものなのか、あるいはそれが何かしらの因果関係にあったのか…。 
俺には全く理解できないし、偶々としか言えない。 

でも、偶々にしてはあまりにも辛すぎる。 
果たしてここまで苦しむような罪を犯したのだろうか?犯していないだろう? 
だとしたら…何でなんだ?不公平過ぎるだろう。それが正直な気持ちだ。 

俺に言える事があるとしたらこれだけだ。 
「何かに取り憑かれたり狙われたり付きまとわれたりしたら、マジで洒落にならんことを改めて言っておく。 
最後まで、誰かが終ったって言ったとしても気を抜いちゃ駄目だ」 

 

222 :リアル(最後):2011/05/13(金) 14:10:29.09 id:rKgs8JSd0

そして…、最後の最後で申し訳ないが俺には謝らなければいけない事があるんだ。 
この話の中には小さな嘘が幾つもある。これは多少なりとも分かり易くするためだったり、俺には分からない事もあっての事なので目をつぶって欲しい。 
おかげで意味がよく分からない箇所も多かったと思う。合わせてお詫びとさせて欲しい。 

ただ…、謝りたいのはそこじゃあない。 
もっと、この話の成り立ちに関わる根本的な部分で俺は嘘をついている。 
気付かなかったと思うし、気付かれないように気を付けた。 
そうしなければ伝わらないと思ったから。 
矛盾を感じる事もあるだろう。がっかりされてしまうかもしれない…。 
でもこの話を誰かに知って欲しかった。 





俺は○○だよ。 

‥今更悔やんでも悔やみきれない。 

 

 

 

死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?264

【洒落怖】八尺様

908 :1/1:2008/08/26(火) 09:45:56 id:VFtYjtRn0

親父の実家は自宅から車で二時間弱くらいのところにある。 
農家なんだけど、何かそういった雰囲気が好きで、高校になってバイクに乗る 
ようになると、夏休みとか冬休みなんかにはよく一人で遊びに行ってた。 
じいちゃんとばあちゃんも「よく来てくれた」と喜んで迎えてくれたしね。 
でも、最後に行ったのが高校三年にあがる直前だから、もう十年以上も行って 
いないことになる。 
決して「行かなかった」んじゃなくて「行けなかった」んだけど、その訳はこ 
んなことだ。 

春休みに入ったばかりのこと、いい天気に誘われてじいちゃんの家にバイクで 
行った。まだ寒かったけど、広縁はぽかぽかと気持ちよく、そこでしばらく寛 
いでいた。そうしたら、 

「ぽぽ、ぽぽっぽ、ぽ、ぽっ…」 

と変な音が聞こえてきた。機械的な音じゃなくて、人が発してるような感じが 
した。それも濁音とも半濁音とも、どちらにも取れるような感じだった。 
何だろうと思っていると、庭の生垣の上に帽子があるのを見つけた。生垣の上 
に置いてあったわけじゃない。帽子はそのまま横に移動し、垣根の切れ目まで 
来ると、一人女性が見えた。まあ、帽子はその女性が被っていたわけだ。 
女性は白っぽいワンピースを着ていた。 

でも生垣の高さは二メートルくらいある。その生垣から頭を出せるってどれだ 
け背の高い女なんだ… 
驚いていると、女はまた移動して視界から消えた。帽子も消えていた。 
また、いつのまにか「ぽぽぽ」という音も無くなっていた。 


909 :2/9:2008/08/26(火) 09:46:59 id:VFtYjtRn0

そのときは、もともと背が高い女が超厚底のブーツを履いていたか、踵の高い 
靴を履いた背の高い男が女装したかくらいにしか思わなかった。 

その後、居間でお茶を飲みながら、じいちゃんとばあちゃんにさっきのことを 
話した。 
「さっき、大きな女を見たよ。男が女装してたのかなあ」 
と言っても「へぇ~」くらいしか言わなかったけど、 
「垣根より背が高かった。帽子を被っていて『ぽぽぽ』とか変な声出してたし」 
と言ったとたん、二人の動きが止ったんだよね。いや、本当にぴたりと止った。 

その後、「いつ見た」「どこで見た」「垣根よりどのくらい高かった」 
と、じいちゃんが怒ったような顔で質問を浴びせてきた。 
じいちゃんの気迫に押されながらもそれに答えると、急に黙り込んで廊下にあ 
る電話まで行き、どこかに電話をかけだした。引き戸が閉じられていたため、 
何を話しているのかは良く分からなかった。 
ばあちゃんは心なしか震えているように見えた。 

じいちゃんは電話を終えたのか、戻ってくると、 
「今日は泊まっていけ。いや、今日は帰すわけには行かなくなった」と言った。 
――何かとんでもなく悪いことをしてしまったんだろうか。 
と必死に考えたが、何も思い当たらない。あの女だって、自分から見に行った 
わけじゃなく、あちらから現れたわけだし。 

そして、「ばあさん、後頼む。俺はKさんを迎えに行って来る」 
と言い残し、軽トラックでどこかに出かけて行った。 

910 :3/9:2008/08/26(火) 09:48:03 id:VFtYjtRn0

ばあちゃんに恐る恐る尋ねてみると、 
「八尺様に魅入られてしまったようだよ。じいちゃんが何とかしてくれる。何 
にも心配しなくていいから」 
と震えた声で言った。 
それからばあちゃんは、じいちゃんが戻って来るまでぽつりぽつりと話してく 
れた。 

この辺りには「八尺様」という厄介なものがいる。 
八尺様は大きな女の姿をしている。名前の通り八尺ほどの背丈があり、「ぼぼ 
ぼぼ」と男のような声で変な笑い方をする。 
人によって、喪服を着た若い女だったり、留袖の老婆だったり、野良着姿の年 
増だったりと見え方が違うが、女性で異常に背が高いことと頭に何か載せてい 
ること、それに気味悪い笑い声は共通している。 
昔、旅人に憑いて来たという噂もあるが、定かではない。 
この地区(今は○市の一部であるが、昔は×村、今で言う「大字」にあたる区 
分)に地蔵によって封印されていて、よそへは行くことが無い。 
八尺様に魅入られると、数日のうちに取り殺されてしまう。 
最後に八尺様の被害が出たのは十五年ほど前。 

これは後から聞いたことではあるが、地蔵によって封印されているというのは、 
八尺様がよそへ移動できる道というのは理由は分からないが限られていて、そ 
の道の村境に地蔵を祀ったそうだ。八尺様の移動を防ぐためだが、それは東西 
南北の境界に全部で四ヶ所あるらしい。 
もっとも、何でそんなものを留めておくことになったかというと、周辺の村と 
何らかの協定があったらしい。例えば水利権を優先するとか。 
八尺様の被害は数年から十数年に一度くらいなので、昔の人はそこそこ有利な 
協定を結べれば良しと思ったのだろうか。 


9114/9:2008/08/26(火) 09:49:15 id:VFtYjtRn0

そんなことを聞いても、全然リアルに思えなかった。当然だよね。 
そのうち、じいちゃんが一人の老婆を連れて戻ってきた。 

「えらいことになったのう。今はこれを持ってなさい」 
Kさんという老婆はそう言って、お札をくれた。 
それから、じいちゃんと一緒に二階へ上がり、何やらやっていた。 
ばあちゃんはそのまま一緒にいて、トイレに行くときも付いてきて、トイレの 
ドアを完全に閉めさせてくれなかった。 
ここにきてはじめて、「なんだかヤバイんじゃ…」と思うようになってきた。 

しばらくして二階に上がらされ、一室に入れられた。 
そこは窓が全部新聞紙で目張りされ、その上にお札が貼られており、四隅には 
盛塩が置かれていた。 
また、木でできた箱状のものがあり(祭壇などと呼べるものではない)、その 
上に小さな仏像が乗っていた。 
あと、どこから持ってきたのか「おまる」が二つも用意されていた。これで用 
を済ませろってことか・・・ 

「もうすぐ日が暮れる。いいか、明日の朝までここから出てはいかん。俺もば 
あさんもな、お前を呼ぶこともなければ、お前に話しかけることもない。そう 
だな、明日朝の七時になるまでは絶対ここから出るな。七時になったらお前か 
ら出ろ。家には連絡しておく」 

と、じいちゃんが真顔で言うものだから、黙って頷く以外なかった。 
「今言われたことは良く守りなさい。お札も肌身離さずな。何かおきたら仏様 
の前でお願いしなさい」 
とKさんにも言われた。 

912 :5/9:2008/08/26(火) 09:50:22 id:VFtYjtRn0

テレビは見てもいいと言われていたので点けたが、見ていても上の空で気も紛 
れない。 
部屋に閉じ込められるときにばあちゃんがくれたおにぎりやお菓子も食べる気 
が全くおこらず、放置したまま布団に包まってひたすらガクブルしていた。 

そんな状態でもいつのまにか眠っていたようで、目が覚めたときには、何だか 
忘れたが深夜番組が映っていて、自分の時計を見たら、午前一時すぎだった。 
(この頃は携帯を持ってなかった) 

なんか嫌な時間に起きたなあなんて思っていると、窓ガラスをコツコツと叩く 
音が聞こえた。小石なんかをぶつけているんじゃなくて、手で軽く叩くような 
音だったと思う。 
風のせいでそんな音がでているのか、誰かが本当に叩いているのかは判断がつ 
かなかったが、必死に風のせいだ、と思い込もうとした。 
落ち着こうとお茶を一口飲んだが、やっぱり怖くて、テレビの音を大きくして 
無理やりテレビを見ていた。 

そんなとき、じいちゃんの声が聞こえた。 
「おーい、大丈夫か。怖けりゃ無理せんでいいぞ」 
思わずドアに近づいたが、じいちゃんの言葉をすぐに思い出した。 
また声がする。 
「どうした、こっちに来てもええぞ」 

じいちゃんの声に限りなく似ているけど、あれはじいちゃんの声じゃない。 
どうしてか分からんけど、そんな気がして、そしてそう思ったと同時に全身に 
鳥肌が立った。 
ふと、隅の盛り塩を見ると、それは上のほうが黒く変色していた。 

913 :本当にあった怖い名無し:2008/08/26(火) 09:51:23 id:VFtYjtRn0

一目散に仏像の前に座ると、お札を握り締め「助けてください」と必死にお祈 
りをはじめた。 

そのとき、 

「ぽぽっぽ、ぽ、ぽぽ…」 

あの声が聞こえ、窓ガラスがトントン、トントンと鳴り出した。 
そこまで背が高くないことは分かっていたが、アレが下から手を伸ばして窓ガ 
ラスを叩いている光景が浮かんで仕方が無かった。 
もうできることは、仏像に祈ることだけだった。 

とてつもなく長い一夜に感じたが、それでも朝は来るもので、つけっぱなしの 
テレビがいつの間にか朝のニュースをやっていた。画面隅に表示される時間は 
確か七時十三分となっていた。 
ガラスを叩く音も、あの声も気づかないうちに止んでいた。 
どうやら眠ってしまったか気を失ってしまったかしたらしい。 
盛り塩はさらに黒く変色していた。 

念のため、自分の時計を見たところはぼ同じ時刻だったので、恐る恐るドアを 
開けると、そこには心配そうな顔をしたばあちゃんとKさんがいた。 
ばあちゃんが、よかった、よかったと涙を流してくれた。 

下に降りると、親父も来ていた。 
じいちゃんが外から顔を出して「早く車に乗れ」と促し、庭に出てみると、ど 
こから持ってきたのか、ワンボックスのバンが一台あった。そして、庭に何人 
かの男たちがいた。 

914 :7/9:2008/08/26(火) 09:52:24 id:VFtYjtRn0

ワンボックスは九人乗りで、中列の真ん中に座らされ、助手席にKさんが座り、 
庭にいた男たちもすべて乗り込んだ。全部で九人が乗り込んでおり、八方すべ 
てを囲まれた形になった。 

「大変なことになったな。気になるかもしれないが、これからは目を閉じて下 
を向いていろ。俺たちには何も見えんが、お前には見えてしまうだろうからな。 
いいと言うまで我慢して目を開けるなよ」 
右隣に座った五十歳くらいのオジさんがそう言った。 

そして、じいちゃんの運転する軽トラが先頭、次が自分が乗っているバン、後 
に親父が運転する乗用車という車列で走り出した。車列はかなりゆっくりとし 
たスピードで進んだ。おそらく二十キロも出ていなかったんじゃあるまいか。 

間もなくKさんが、「ここがふんばりどころだ」と呟くと、何やら念仏のよう 
なものを唱え始めた。 

「ぽっぽぽ、ぽ、ぽっ、ぽぽぽ…」 

またあの声が聞こえてきた。 
Kさんからもらったお札を握り締め、言われたとおりに目を閉じ、下を向いて 
いたが、なぜか薄目をあけて外を少しだけ見てしまった。 

目に入ったのは白っぽいワンピース。それが車に合わせ移動していた。 
あの大股で付いてきているのか。 
頭はウインドウの外にあって見えない。しかし、車内を覗き込もうとしたのか、 
頭を下げる仕草を始めた。 

無意識に「ヒッ」と声を出す。 
「見るな」と隣が声を荒げる。 

慌てて目をぎゅっとつぶり、さらに強くお札を握り締めた。 

915 :8/9:2008/08/26(火) 09:53:50 id:VFtYjtRn0

コツ、コツ、コツ 
ガラスを叩く音が始まる。 

周りに乗っている人も短く「エッ」とか「ンン」とか声を出す。 
アレは見えなくても、声は聞こえなくても、音は聞こえてしまうようだ。 
Kさんの念仏に力が入る。 

やがて、声と音が途切れたと思ったとき、Kさんが「うまく抜けた」と声をあ 
げた。 
それまで黙っていた周りを囲む男たちも「よかったなあ」と安堵の声を出した。 

やがて車は道の広い所で止り、親父の車に移された。 
親父とじいちゃんが他の男たちに頭を下げているとき、Kさんが「お札を見せ 
てみろ」と近寄ってきた。 
無意識にまだ握り締めていたお札を見ると、全体が黒っぽくなっていた。 
Kさんは「もう大丈夫だと思うがな、念のためしばらくの間はこれを持ってい 
なさい」と新しいお札をくれた。 

その後は親父と二人で自宅へ戻った。 
バイクは後日じいちゃんと近所の人が届けてくれた。 
親父も八尺様のことは知っていたようで、子供の頃、友達のひとりが魅入られ 
て命を落としたということを話してくれた。 
魅入られたため、他の土地に移った人も知っているという。 

バンに乗った男たちは、すべてじいちゃんの一族に関係がある人で、つまりは 
極々薄いながらも自分と血縁関係にある人たちだそうだ。 
前を走ったじいちゃん、後ろを走った親父も当然血のつながりはあるわけで、 
少しでも八尺様の目をごまかそうと、あのようなことをしたという。 
親父の兄弟(伯父)は一晩でこちらに来られなかったため、血縁は薄くてもす 
ぐに集まる人に来てもらったようだ。 

916 :9/9:2008/08/26(火) 09:54:54 id:VFtYjtRn0

それでも流石に七人もの男が今の今、というわけにはいかなく、また夜より昼 
のほうが安全と思われたため、一晩部屋に閉じ込められたのである。 
道中、最悪ならじいちゃんか親父が身代わりになる覚悟だったとか。 

そして、先に書いたようなことを説明され、もうあそこには行かないようにと 
念を押された。 

家に戻ってから、じいちゃんと電話で話したとき、あの夜に声をかけたかと聞 
いたが、そんなことはしていないと断言された。 
――やっぱりあれは… 
と思ったら、改めて背筋が寒くなった。 

八尺様の被害には成人前の若い人間、それも子供が遭うことが多いということ 
だ。まだ子供や若年の人間が極度の不安な状態にあるとき、身内の声であのよ 
うなことを言われれば、つい心を許してしまうのだろう。 

それから十年経って、あのことも忘れがちになったとき、洒落にならない後日 
談ができてしまった。 

「八尺様を封じている地蔵様が誰かに壊されてしまった。それもお前の家に通 
じる道のものがな」 

と、ばあちゃんから電話があった。 
(じいちゃんは二年前に亡くなっていて、当然ながら葬式にも行かせてもらえ 
なかった。じいちゃんも起き上がれなくなってからは絶対来させるなと言って 
いたという) 

今となっては迷信だろうと自分に言い聞かせつつも、かなり心配な自分がいる。 
「ぽぽぽ…」という、あの声が聞こえてきたらと思うと… 

 

 

死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?186